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3.飛行機の翼の周りの気流

流線型の翼の断面図飛行機の翼の場合、人間や搭載された重い荷物を支えるために厚さが必要な翼は、単純な平面ではなく、図のように流線型をしていますが、このことを無視して平板と考えても、現象の説明には、差し支えありません。だから、以下の説明は、この差を無視して行います。実際、風に平行に置かれた薄い板は流線型ですので、第一次世界大戦の頃は、翼は単純な平面で、これを上下に二枚設け、この二枚を柱で支えることによって、重量を支えていました。また蝶の翼は平板翼です。

  さて、飛行機の場合は小さい迎角で飛んでいるのですが、これは上で説明した抗力をできるだけ小さくして、飛行機を推し進め流線翼の周りの気流を示す画像るエンジンの燃費を少なくするためです。
  ご存知のように、自動車や新幹線の先頭車両は流線型をしていますが、これは進行に伴って入ってくる風が流線型の表面にきれいに沿って流れます。右の図は迎角ゼロの状態で流れの中におかれた流線型の翼の周りの流れの線を、風の中に煙を層状に入れて測定したものです。流れは翼に沿って乱れることなくきれいに流れています。こうなると、非流線翼の周りの気流を示す画像流れを止めようとする力が極めて小さくなります。
  
  これに対して、流線型でない物体の場合は、流れが右の図に示すように、完全に物体からはがれて、特に物体の後方では台風のように渦巻きを巻いて流れています。このようになると、物体には、非常に大きな抗力が加わるのです。

迎角を10度付けた流線翼の周りの気流を示す図  次に流線形の翼に迎角を付けてみますと、迎角が小さい間は、この流線沿って層流となってきれいに流れているのです。左の図は、迎角を10度くらい付けた場合の翼の周りの流れを示しています。ただし迎角は説明の都合上10度より大きく描かれています。図は、この程度以下の迎角では、流線は翼からはがれることなく層流となって流れていることを示しています。このことは、蝶の翅のような一枚の薄板の場合も同様です。一枚の薄板でも、これを流れに沿って置いた場合には、流線型なのですから。

  このように、迎角が小さい状態に置かれた翼回りの流れは、翼に沿うようにきれいに流れていますから、風に対する抵抗は、非常に小さいままです。このおかげで飛行機は少ない燃費で、鳥や蝶は少ないカロリー消費で飛べるのです。

  次に、飛行機や鳥を速度と直角の方向に空気中に引揚げる力(以後これを揚力という)について説明しましょう。平板翼にしても、流線型の翼にしても、迎角が10度以下と小さくても、大きな揚力が働きます。この現象は、20世紀の初頭にクッターとジュウコウスキーという学者によって、複素関数論という難しい数学を使って理論的に解明され、揚力の大きさが理論から求められるようになったものです。この理論のことをクッター・ジュウコウスキーの定理といいます。この理論については、大学に進学されてから勉強していただきたいのですが、ここで一言だけ言っておきますと、上のような翼周りの流れの場合、流速は翼の上で早くなり、翼の下で遅くなります。すると高速道路で車が早く走っていると道路1kmあたりの車の数すなわち車の密度が小さくなり、渋滞して低速で走っていると大きくなるように、流れの速い上部では空気の密度、すなわち圧力は低くなり、流れの遅い下部では空気の密度すなわち圧力は高くなるというように、翼の上面と下面で圧力差が生じて、これが翼を引き上げるのです。

  ではどれくらいの力が働くのかを計算してみましょう。例えば、迎角4度、速度900kmで飛んでいる旅客機の場合、単位平方メートルあたり、1.4トン(1400kg)という大きな揚力が働くのです。また、日本で一番重い鳥はオオハクチョウですが、これが毎時70kmで飛んでいるとすると、揚力は13kgとなり、自重の12kgを運べることになるのです。なお、迎角4度で飛ぶときの抗力は、1/10以下です。

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4.従来の凧面の周りの気流

迎角が大きい従来の凧の周りの気流を示す図まず申し上げたいことは、これまでの凧と飛行機や鳥との違いは、迎角が異なる点です。これまでの凧は、迎角がある一定の角度、平板翼では、通常10度を超えて30度(三角定規の最小の角度)程度に大きく設定されています。これに対して、飛行機や鳥の場合、10度以下の通常4度〜6度に採られています。糸で拘束され、自然の風を受けて飛んでいる凧の場合、エネルギー消費はしませんから、飛行機と違って抵抗を受けてもエネルギー的には問題がありません。したがって従来の凧は、10度よりも遥かに迎角を大きく設定して飛んでいるのです。迎角が大きいときの気流の状態を示したのが左の図です。図は、迎角が大きい場合流れ面からはがれていることを示しています。このような迎角では、抗力は迎角が小さく流れが面から剥がれていない場合の抗力の10倍以上になります。このような状態を飛行機の場合は、失速した状態といいます。この現象は、迎角がある限度を超えて大きくなると、突如として起きる現象で、飛行機は急速に速度を落として墜落します。名古屋空港で外国から飛んできた旅客機が失速を起こして墜落したことは、有名な話です。この失速を起こす迎角を失速角といいます。

 さて、凧の場合失速して飛んでいても、糸は抗力を受け止め、揚力はあるので墜落することはありません。実際これまでの凧は、失速角以上の迎角をとって飛んでいたのです。しかし、抗力が大きいと凧は風の方向に流されて高く揚がってくれません。だからできれば抗力を小さくして真上に揚げたいのですが、従来の凧には水平尾翼がないために、このような状態で飛ばすことはできなかったのです。実は、バイオカイトとは、カイト面の後部に水平尾翼に相当する部分を設けて、失速角以内の角度で迎角を設定して、糸が風に流されることがなければ、真上に揚がるようにしたものです。


Last Update : 2010-01-28
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